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お題小説
30分切れ負け
お題
『ギザ10(ギザギザの10円玉)』
『スプートニク』
『アサガオ』
どうぞ。
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アサガオの下には死体が埋まっている。
そんな言葉を口にした君は、確か小学生の君だった。
幼心ながら、僕はその言葉にどこかしら真実みたいなものが含まれている気がした。
成人した今となっては、そんな言葉にはなんの信憑性もないことが分かる。
というか、死体があるのはアサガオの下ではなく桜の木の下なのではないか。
なぜ、アサガオの下には死体があるなんて君が言ったのか、それは永遠の謎になってしまった。
とにかく、小学生だった君と僕はアサガオの下には死体があると、そう疑いもなく信じていたのだ。
好奇心の塊だった君は、当然こう言うのだった。
「ねえ、一緒に探しにいこうよ」
可愛らしい声で、君はそういうのだ。
僕には、君の誘いを断るなんてことができるはずがなかった。
僕らはアサガオを探しに歩き出した。
君が言うには、そのアサガオはただのアサガオではないそうなのだ。
そのアサガオは、真っ赤な色をしているのだそうだ。
「純粋な真っ赤なんだよ」
と、君は言った。
そんなアサガオ見たことがなかったけれど、君がいうのだから間違いはないだろう。
僕たちは真っ赤なアサガオを探しに社宅の敷地内を見て回った。
その当時、それはとてつもない大冒険だった。
僕と君は三号館の社宅に住んでいたのだけれど、その時の冒険は1号館から5号館まで、すべての社宅の敷地内を探索したのだ。
それはやっぱり、僕たちにとって大冒険だった。
その社宅は緑がいっぱいあって、子供だけがぬけられる秘密の抜け穴みたいなのがいくつかあった。
秘密の抜け穴とはいっても、そんな大層なものではない。
何かのひょうしに木々に隙間ができて、そこが丁度、子供しか気付かないような小さなものだったのだ。
僕と君は、その抜け道をいくつも通って冒険を続けた。
いつもは行かないような場所が目の前に広がるたび、僕はワクワクするような、怖いような、お腹の底がフカフカする気持ちにさせられた。
僕は自然に君の手を握っていた。
手から伝わってくる君の体温はとても心地のいいものだった。
そして、僕らはついにそれを見つけた。
真っ赤なアサガオだった。
それはおかしなアサガオだった。
花弁が真っ赤なのも居ようだったけれど、それは茎までが真っ赤だった。
花弁の中心部分さえ赤色だった。
なんだか人間みたいなアサガオだな……僕はよく分からないままに、そんな感想を思っていた。
「掘ってみましょう」
君はそういって、アサガオの下を掘り始めた。
僕はとてもいやな予感がした。
おそらく臆病風にふかれていたのだろう。
周りを見渡してみても、そこがどこだか分からなかった。
おそらくは社宅の敷地内だ。
しかし、本当にそうなのだろうか。
そこは植物たちがいっぱいの見知らぬ場所だった。
僕は怯えた。
そのとき、君が息をのむのが分かった。
「ほら、見て」
君に促されるままにアサガオの下を見た。
そこには、一人の少女が埋められていた。
とても綺麗な少女だった。
死んでいるようにはまったく見えなくて、今にもひょっこり起きだしてきそうな死体だった。
「ね、ほんとうだったでしょ?」
君はそういった。
僕は大人の人に知らせたほうがいいと君に言った。
君はキョトンと首をかしげるだけだった。
僕は電話を探しに走り出した。
僕は名札のワッペンを胸からはずした。
その中には、10円玉が入っているのだ。
親が緊急連絡手段として僕に渡していたものだった。
僕は公衆電話を探して、その10円玉をいれた。
その10円玉はギザ10だった。
周りがギザギザした10円玉だ。
だからなのだろうか?
電話は、ぷーぷー、という音をたてるだけで繋がらなかった。
ギザ10はそのまま帰ってこなかった。
まるで宇宙に飲み込まれるみたいに、ガチャンと公衆電話が10円玉を飲み込んでしまった。
僕は駆け出した。
君のもとへと走った。
元の場所に戻ったとき、君はすでにいなかった。
あの真っ赤なアサガオもなかった。
そのアサガオの下に埋められていた少女の死体も見当たらなかった。
代わりに、その真っ赤なアサガオがあった隣に、真っ青なアサガオがあった。
茎まで真っ青なアサガオだった。
さっきまではなかったものだ。
それが君の代わりとでもいうように、そこに咲き誇っていた。
僕は、そのアサガオの下を掘ろうとした。
何かが埋まってるのではないかと確信していたからだ。
そのアサガオに触れたとき、僕には全部わかってしまった。
君はスプートニクになったのだ。
なぜだかそう思った。
君はスプートニクになったのだ。
だからもう会えない。
幼心に、なぜかそう確信した。
僕は哀しい気分になりながら一人で歩き出した。
涙がおちないように空を見あげた。
そこには真っ青な空が浮かんでいた。
この空の向こうに、スプートニクはいるのだろうか。
分からなかった。
僕と君は、もう二度と会えないのだ。
(おしまい)
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(総評)
文学は無理だ。
でも、やりたいことの一端はできた。
とりあえず、風景描写がうまくない純文学は屁のツッパリにもならないことを再確認した。
やっぱり、先人たちはすごいのだなあと思いました。
30分切れ負け
『猫』
『恐山』
『かき氷』
どうぞ。
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吾輩は猫である―――なんていう小説があったのを記憶している。
確か千円札が書いた大衆小説だ。
あれを読んだとき、俺は文豪と呼ばれる人間がこんないい加減なものを書いていいのかと首をかしげたものであるが、今では感慨深い話だ。
俺は自分の体を見てみる。
そこには、毛むくじゃらな体がある。
体毛がすごいとかいう表現ではたりない。
俺の体は人間ではなかった。
猫だった。
唐突だが宣言しよう。
どうやら俺は、猫の体に口寄せされたらしい。
●●●
恐山の口寄せの術といえばなかなかに高名な術であり、俺も生前不可思議な術式があるものだなあ、と達観したものだ。
そして、俺はなぜかその口寄せの術によって、猫の体になってこの世に顕現してしまったのだ。
まったく、死人になんてひどい扱いをするのだろうか。
あの世で悠々自適の生活を送っていたというのに、これではあんまりである。
この世に戻ってきたら「はい畜生です」では俺がうかばれない。
だから俺は、恐山で俺のことをこの世に戻した奴らにむかってこう言ったのだった。
「にゃにゃにゃあ! にゃあ! にゃにゃ!」
すさまじい剣幕に相手はビクついているようだった。
生前、鬼軍曹と呼ばれた貫禄が滲み出ていたのだろう。
彼らは俺の体を抱き寄せると俺の頭を撫でながらひとしきり謝っていた。
そのとき、ゴロゴロと不覚にも喉をならしてしまったのが悔やまれるものだ。
俺は恥辱にまみれ、それ以上はその場所にとどまっていることができずに逃亡した。
恐山を下山し、俺は今住宅街を歩いていた。
はてさて、ここはどこなのだろうか。
恐山とはいったい何県にあったか……ちっとも思い出せない。
俺は四本足で歩きながら、途方にくれて「にゃあ……」と鳴き声をあげてしまった。
その鳴き声はあまりにも弱々しく哀愁をただよわせるものだったので、俺はこれではいかんとばかりに決意表明した。
「にゃにゃあ! にゃああ!」
いさましく、貫禄に満ち溢れた決意の塊だった。
そんな俺の美声につれられたのか、一匹のメス猫が俺の目の前にあらわれた。
ペルシャ猫だ。
こんなド田舎に小粋な猫がいたもんだと思っていると、なぜかそのペルシャ猫が鼻息を荒くして俺に襲い掛かってきた。
「にゃにゃあ!?」
俺の疑問の声には無頓着に、彼女は俺の体をまさぐってくる。
顔を俺の全身にこすりつけ、ペロペロと舌で愛撫する。
彼女の舌はザラザラしていて痛い。
はて、なぜこんあ美人の舌がかくも痛いのかと思うのだが、なんてことはない、彼女は猫なのである。猫の舌はザラザラしているものなのである。痛いのは当然なのだった。
「にゃああん!」
喘ぎ声をだしながら、彼女は俺を責める。
顔を赤らめて、鼻息を荒くして、俺の体を求めているようである。
発情しているのだ。
まったく、これだから畜生は始末におえない。
俺の意識が憑依している猫の体は、そこまで男前ではないものである。
にも関わらず、美人であるペルシャ猫は俺の体を求めてやまないのである。
こいつらは結局誰でもいいのだ。
性欲を発散したいだけなのだ。
いや、ただ子孫を残したいだけなのだ。
人間で童貞な男は、すべからく猫になるべきだ。
誰でもやヤレるぞ本能万歳だ。
バカバカしいといったらなかった。
「ニャニャッ!!」
俺は毅然に言った。
このアバズレ女がとっととイね!
そういう言葉を口にしても、彼女は逆に興奮して私の体を狙うだけだった。
始末におえない。
俺は走り出した。
追いかけてくる彼女を持ち前の脚力で突き放す。
なんとかまけたようだ。
私は走ったからか空腹を感じた。
近くにかき氷屋があった。
かき氷は生前の俺の好物だ。
机には注文を受けてつくられたかき氷が並べられていた。
私はひょいっと机に飛び乗った。
猫の俺にとって、これくらいは造作もないことだった。
私はかき氷に舌を這わせた。
いっきにぱくついた。
氷の塊がいっきに喉を嚥下していく。
その時だった。
私は、頭が勝ち割られるような頭痛に襲われた。
「ニャニャアア!!」
猫にも関わらずかき氷なんか食べた私がいけなかったのだろう。
俺はぐったりと倒れこんだ。
私の意識は猫の体からスルリとぬけた。
そして、天高く舞い上がり、もとのあの世へと戻った。
こうして、私の畜生道は終わった。
(終わり)
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(総評)
今回はいつも以上にひどかった。
まずテンポが悪い。
オチもわけがわからん。
人間の偉そうな態度を猫がすることによって滑稽というか可愛くなってしまうという場面を書きたい・・・・というやりたいことができなかった。
精進精進。
30分切れ負け。
どうぞ。
『富士山』
『じゃがりこ』
『金髪』
名探偵、花大路勝利は、富士の雪の山荘にいた。
何を思ったのか冬の富士山に挑んだ彼は、半そで半ズボンという軽装ゆえに凍死寸前であった。
もうすぐあの世からお迎えがくる―――そんな彼を救ったのは山のコテージだった。
北大路勝利はそこで一命をとりとめるも、なんとそこで殺人事件が勃発してしまった!
さすがは北大路勝利!
いつもどおり見事な死神っぷりを炸裂させている彼は、その後連続殺人事件にクラスチェンジした事件を解決するために暗躍をかさねた。
そして、今、北大路勝利は犯人に行き着いたのだった!
彼は容疑者4名、すなわち馬鹿田大樹、馬鹿田芳樹、馬鹿田沙世、そして河馬田美香をラウンジへと集めた。
今宵も、北大路勝利のIQ200が冴え渡る!!
●●●
「やはり、事件をとく鍵は浴槽におちたこの毛髪にあったわけです」
北大路勝利は一本の毛を手に持ちながら言った。
しかし、その毛髪は、日本人のものではなくて……
「見てのとおり、金髪の毛髪です。これを浴槽で発見したとき、私は妙な気分にさせられましたあ。黒の中に金色があると妙な気分になる。ええ、それは間違いなく性欲のかかわる何かでしたが、今はそんなことはどうでもいいです。問題は、なぜ馬鹿田家御用達のコテージに、金髪の毛髪が落ちているのかと、そういうことなんですよ」
北大路勝利は、一昔前の探偵小説にでてきそうな帽子を人差し指であげてから、
「貴方がたのは皆日本人だあ。ハーフですらない。言わずもがな、髪の色は黒です。では、なぜ浴槽に金髪の毛髪が落ちていたのかあ」
「そ、それは探偵さん、さっきも言ったではないですか。それはきっと、私達の息子の馬鹿田隆志の髪の毛だって。息子は金髪に染めていますから」
「それは違いますよ奥さん。ええ、的外れもいいところです。いいですか? 実はこの毛髪……髪の毛ではないんですよ」
「え? 髪の毛じゃない!?」
驚きの声をあげる皆。
北大路勝利は、不敵に言い放った。
「そう、これは髪の毛ではない―――陰毛だあ!!」
ビカカーン、と彼の背後に稲妻がはしった。
「い、陰毛ですか?」
「そのとおりです。そして、これが事件をとく鍵でした。事件現場に残されていたこの髪の毛。第一被害者の馬鹿田刃迦さん殺害現場におちていたこの金髪の陰毛――これをひもとけばすぐに犯人は分かりましたあ」
「探偵さん、そんなにもったいぶらずに、はやく犯人を教えてください。バカ・・・いえ、馬鹿田さんたちを殺した犯人がいると思うと、私は夜も眠れないんです!」
と、ゆういつ馬鹿田ではない河馬田美香が言った。
北大路勝利は、鬼の首でもとったように言った。
「河馬田さん・・・・・犯人は貴方ですよ」
「え? わ、私が!?」
「そうです。貴方、第一被害者の隆志さんとは婚約者で、しかも第一発見者でしたねえ。お風呂に一緒にはいろうとしたとき彼の死体を発見したとか」
「そ、そうですが」
「河馬田さん、貴方、そのとき風呂に一緒にはいっていたんでしょう。だから金髪の陰毛が風呂場に残されることになったあぁ」
「ちょっとまってください」
北大路勝利の言葉をとめたのは馬鹿田大樹だった。
彼は続けた。
「金髪の陰毛って……美香さんはれっきとした日本人ですよ。髪の毛だって黒ですし、そんなありえません」
「旦那さん、あなたの気持ちはよおく分かる。しかし、事実はまげることはできませえんん。何を隠そう、彼女は外国人とのハーフ・・・・・・この黒の髪の毛だって、染めたものにすぎないんですよお!」
ビカカーンと彼の背後で稲妻がはしった。
「な、それは本当かい美香さん」
「だ、だからなんだっていうの! それに、第二の殺人事件のとき私にはアリバイがあるわ! そのときも私が第一発見者だったけれど、そのとき私は凶器をもっていなかった! 被害者は頚動脈を切断されたというのに、そのときの凶器はまだ見つかっていないじゃない!」
豹変したように河馬田は言った。
北大路は、どこからだしたのかいつのまにかタバコを吸い、スウーと煙を吐き出しながら言った。
「じゃがりこですよ」
「じゃ、じゃがりこ?」
「ええ、そうです。河馬田さん、あなた、重度のじゃがりこ中毒だったあ。寝るとき以外、いつもじゃがりこを食べていましたね。最初、私も変わった人間がいるものだなあと思っていただけでした。しかし違ったんですね。貴方は犯行を隠すためだけに、毎日毎日じゃがりこを食べ続けていたんだあ」
「ちょっとまってください。じゃがりこなんかでどうやって人を殺すっていうんです?」
「ふっ、じゃがりこの先端をとがらせれば造作もないことです。あれはかなり固いですからねえ。先端を尖らせれば、人の柔らかい肉など一発ですよ。そしてそのあとは・・・・・
北大路は河馬田美香を指差してから、
「犯行後はそのじゃがりこをムシャムシャと食べてしまえばいいんだ! それで凶器はなくなる! 完全犯罪でしたよ。ええ、なかなか思いつくことじゃあない。貴方のゆういつの失敗は、私がここにいたということだけです。この私、名探偵北大路勝利がね」
その言葉を聞いたとたん、美香は泣き崩れた。
そして、独り言をいうかのように口走った。
「許せなかったのよ! じゃがりこはポテトチップスにおとった下等なお菓子だという彼らの言葉が許せなかった。だからだから・・・・・」
「美香さん。あなたのじゃがりこへの熱意は認めます。しかし、そのじゃがりこで人を殺す・・・・これは商品価値を低めることになりませんかあ。貴方はじゃがりこのためといいながら、ますますポテチの不動の人気を高めただけなじゃないですか」
「そ、そんな・・・・私は、私は・・・・・・」
河馬田は泣き崩れた。
罪の意識に彼女は己の悪行を悔い改めたのだ。
北大路は彼女の肩にそっと手をそえた。
事件は無事解決されたのだった。
迷探偵、北大路勝利の冒険ははじまったばかり。
次はどんな迷事件が彼を待ち受けているのか。
がんばれ北大路勝利!
君の栄光はすぐそこだ!
お題
『着物』
『掃除機』
『かぼちゃ』
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「君の顔は、いつ見てもかぼちゃみたいだよなあ」
なんて、これまたいつものように美香が言った。
幼馴染の顔を見て、開口一番にそれはあんまりである。
それに、断じて俺の顔はかぼちゃに似ているなんてことはない。
毎日毎日、かぼちゃ扱いされるせいで、俺にとって「かぼちゃ」という単語はコンプレックスになりつつあった。
この精神的トラウマをどうしてくれるのだろうか。
「いや、だって君の顔はかぼちゃじゃないか。どうみてもかぼちゃだよ。君の顔を見た人間10人中10人が君のことをかぼちゃだというだろう」
そうかぼちゃかぼちゃ連呼されると、本当に自分がかぼちゃになったみたいで嫌だ。
「あれ? なんだっけ? かぼちゃの芽には毒があるんだっけ? ソラニンとかいったかな」
それはじゃがいもだ! といつものように突っ込みをいれると、美香は「うわ、かぼちゃが喋ったああ」と驚いてみせた。
殺してやりたい。
「そういえば、君の顔、どこかで見たことがあるな。あ、あれだ。私の家にある雛人形にそっくりなんだ。これが傑作でね。うちの雛人形の顔はぷくぷくにふくれて、これがなんとかぼちゃみたいなんだよ。ははは、君にお似合いだな!」
高笑いをする幼馴染。
笑うたびに彼女の大きな胸がプルンプルン揺れた。
「なかでも殿様? あの一番上に偉そうに座ってる男が君nそっくりでねえ。せっかくだからと、小学生の頃にかぼちゃ色に染めたことがあるんだその顔を。そしてらビックリ仰天で、君になったんだよ! あれはほんとかぼちゃでねえ。とてもおいしそうなくらいのかぼちゃだったなあ」
かぼちゃかぼちゃと、こいつには語彙がないのだろうか。
「……まあ、君そっくりのその人形は、私にとってもやはり特別な存在になったわけだけれどね」
ん? なんか言ったか?
「なんでもないよカボチャくん! しかし聞いてくれよ、そのかぼちゃ雛人形なんだが、ついこの間、君そっくりの人形の耳が落ちてしまってねえ。それに気付かないまま、うっかり掃除機で吸い込んでしまったんだよ!」
掃除機?
「そうさ。いやあ、私としたことがとんだヘマだったな。しかもその掃除機は吸引力が落ちないでおなじみのすさまじい掃除機だったからね、ウインウインと回転しているうちに、耳が完全に破壊されてしまってねえ。復元不可能になってしまったんだよ!」
悲嘆にくれる彼女。
それは災難だったなと、俺は適当にあいずちをうった。
「お? 同情してくれるのかい」
いや、同情ってほどでもないけれど。
でも、大事にしていたものが壊れるっていうのは、とても嫌なことだと思うからさ。
「そうだねえ。そうだよねえ。そこでものは相談なんだけどさあ」
美香は、ニヤリと唇を吊り上げると、
「君、私の雛人形になってくれないかな?」
と、手にスタンガンを持ちながら言った。
何を言っているんだこいつは。
「だって、君の体はもう、動かないだろ? さっきから一言も喋ってないの、気付いていないのかい」
は?
いやだって、俺はこうして……
「君は自分で喋っているつもりらしいけどね、君はさっきから一言もしゃべっていないんだよ。まあ、私ほどのかぼちゃマニアになると、それでも君の言いたいことくらい分かるけれどね」
な、なんだと?
「体も動かない。当然だね。すでに君の体は蝋人形になっているのだから。ふふふ、ここは私の秘密の部屋で、暗闇に染まっているのだよ? 君には何も見えないだろう。見えているのは私だけなんじゃないかな? 当然だよね。だって君は私の雛人形になるんだから」
俺の目……
確かに、なぜだろう。
俺は俺のいる場所を認識できないでいる。
そんな描写は一つもしていないし、俺が見えているのは彼女だけ……
体も、動かない?
え?
なんで……
「ふふふ、今からちゃんと着物をきせて、お化粧もして、立派な雛人形にしてあげるからね」
彼女だけが見える。
彼女は、嗜虐的な笑みを浮かべながら……
「これからもよろしく頼むよ。私だけのかぼちゃくん」
(おしまい)
お題小説のPART2です。
30分切れ負け。
お題は3題です。
どうぞ。
『TSUTAYA』
『アダムスファミリー』
『傘』
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その日は、記録的な豪雨だったと思う。
勤め先から帰ってきた私は、全身をずぶぬれにして寒さに震えていた。
傘をさしていながらコレなのだった。
100円ショップで買ったビニール傘ではあったが、さすがにもう少し傘としての役割を全うしてくれないものかと、私は顔をしかめながら傘をたてかけた。
そのとき電話がなった。
自宅備え付けたの固定電話だ。
私は受話器を取り上げ、耳にもってきた。
聞こえてきたのは男の声だった。
「もしもし、笹原さんのお宅でしょうか?」
「そうですが?」
「あ、私足立区TSUTAYAのものなんですが」
TSUTAYA?
私は戸惑うようにして思った。
確かに、私の住居は足立区にあり、そのTSUTAYAの店舗は知っていた。
よくDVDを借りにいく店だ。
しかし、最近は仕事が忙しくて、利用した記憶がなかった。
だから延滞という可能性もないだろう。
いったいなんの電話なのだろうか、困惑したように沈黙していると、店員の男は一度店にきてください、と言い残して電話をきった。
ぷーぷー、という無機質な音が聞こえてきた。
「なんなんだいったい」
不機嫌そうに言い、とりあえずは体を乾かしてからだとばかりに、バスタオルと着替えを取りに行った。
そして、居間でテレビをみながら、体をかわかした。
今だに液晶ではなくブラウン管の画面からは、殺人事件の報道がなされていた。
新しい事件だ。
どうやら、6時間前に、一人の老婆が殺されたらしい。
しかも、その現場は自宅から近所だった。
「怖いなあ」
もう少しその事件の情報を知りたかったのだが、すぐにニュースはかわった。
私は体を乾かし終わると、近所のTHUTAYAへと向かった。
●●●
そこはけっこう大きめのTSUTAYAだった。
私自身もDVDの豊富さからここの会員になったようなものであるから、その豊富さは折り紙つきだった。
私はいつものようにエスカレーターをつかって店の中へと入っていった。
私を待ち受けていたのは、警察だった。
「ええと、あなたが笹原さん?」
目つきの鋭い初老の警察が言った。
彼のほかにも私の周りを囲むようにして、4人の警察員がいた。
その全員が大柄で、私は圧倒されてしまった。
「はい、そうですが」
私は戸惑いながら答えた。
「そうですか、で、笹原さん。あなた、この店ではよくビデオを借りているようですね」
ビデオではなくDVDだと訂正したかったが、この年代の男にとってはどちらも同じようなものなのだろう。
私は端的に「そうです」と答えた。
「この前借りたビデオを覚えていますか?」
「たしか、アダムスファミリーの一作目だったと思いますが」
「そうですね。確かにそうだ。そして、あなたは同じようなビデオを何本も借りている」
「同じようなビデオ?」
警察は、鋭い視線で私をとらえると「そうです」という前置きのあとで、
「残虐な内容のビデオですよ。あなたが借りるのはきまって、人が残虐な方法で殺されるものばかりだ。コメディ調のも含まれているようですが、どこかしらに人が死ぬ描写がある。そうですね?」
「いや、ちょっと待ってくださいよ。別にアダムスファミリーは・・・・・」
「死ぬでしょ? 人が」
「た、確かにそうですが」
なおも抗議の声をあげようとしたとき、警察は本題にはいるようにして言った。
「笹原さん、この近所で殺人事件がおこったのを知っていますか?」
それは疑問ではなく、断定的な声色の言葉だった。
私が肯定の言葉を口にすると、警察は鬼の首でもとったように、
「あなたがやったんでしょ?」
「は、はい?」
「あなたが殺したんでしょ」
警察はやはり断定的に言った。
「今回の殺人は非常に猟奇的でしてねえ。いや、こんなところではいえないくらいの惨殺っぷりでしたよ。それで、私たちは近所のビデオ屋で調べていたわけです」
「な、なにをですか?」
「決まっているでしょう。そういうものが好きな人間をですよお。猟奇的な内容のビデオを借りている人間がいないか、調べていたんです。そしてあなたにたどりついたあ」
確信的な瞳で警察は私をにらんで、
「あなたが犯人なんでしょ?」
「ちょっと待ってください! なんでそんなことで犯人扱いされなくてはいけないんですか!?」
「だって、あなたは猟奇的な内容のビデオばかり借りてたじゃないですか。動かぬ証拠ってやつですよ」
「な、なにを言って・・・・・」
「ん? ひょっとしてその傘ですかな?」
警察は私の持っているビニール傘を指さしながら言った。
「その傘が凶器なんですか?」
「きょ、凶器?」
「しらばっくれても無駄ですよ。その傘で被害者を刺したんでしょうが」
「そ、そんなこと・・・・・」
こいつらはなにを言っているんだ?
まったく意味がわからない。
しかし、警察は待ってくれるつもりはないようで
「ビデオを借りていた以上、あなたが犯人なんですよ。ほら、このとおり令状もでています」
「そ、そんな・・・・だって・・・・」
「おい、連行しろ」
言うと、周りの警察が私の腕をつかんで手錠をはめた。
そのまま、引きずるようにしてパトカーに乗せられた。
私は必死に身の潔白を主張した。
しかし、結果は変わらなかった。
私は二年後、最高裁判所から死刑判決を言い渡された。
(おしまい)