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お題小説のPART2です。
30分切れ負け。
お題は3題です。
どうぞ。
『TSUTAYA』
『アダムスファミリー』
『傘』
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その日は、記録的な豪雨だったと思う。
勤め先から帰ってきた私は、全身をずぶぬれにして寒さに震えていた。
傘をさしていながらコレなのだった。
100円ショップで買ったビニール傘ではあったが、さすがにもう少し傘としての役割を全うしてくれないものかと、私は顔をしかめながら傘をたてかけた。
そのとき電話がなった。
自宅備え付けたの固定電話だ。
私は受話器を取り上げ、耳にもってきた。
聞こえてきたのは男の声だった。
「もしもし、笹原さんのお宅でしょうか?」
「そうですが?」
「あ、私足立区TSUTAYAのものなんですが」
TSUTAYA?
私は戸惑うようにして思った。
確かに、私の住居は足立区にあり、そのTSUTAYAの店舗は知っていた。
よくDVDを借りにいく店だ。
しかし、最近は仕事が忙しくて、利用した記憶がなかった。
だから延滞という可能性もないだろう。
いったいなんの電話なのだろうか、困惑したように沈黙していると、店員の男は一度店にきてください、と言い残して電話をきった。
ぷーぷー、という無機質な音が聞こえてきた。
「なんなんだいったい」
不機嫌そうに言い、とりあえずは体を乾かしてからだとばかりに、バスタオルと着替えを取りに行った。
そして、居間でテレビをみながら、体をかわかした。
今だに液晶ではなくブラウン管の画面からは、殺人事件の報道がなされていた。
新しい事件だ。
どうやら、6時間前に、一人の老婆が殺されたらしい。
しかも、その現場は自宅から近所だった。
「怖いなあ」
もう少しその事件の情報を知りたかったのだが、すぐにニュースはかわった。
私は体を乾かし終わると、近所のTHUTAYAへと向かった。
●●●
そこはけっこう大きめのTSUTAYAだった。
私自身もDVDの豊富さからここの会員になったようなものであるから、その豊富さは折り紙つきだった。
私はいつものようにエスカレーターをつかって店の中へと入っていった。
私を待ち受けていたのは、警察だった。
「ええと、あなたが笹原さん?」
目つきの鋭い初老の警察が言った。
彼のほかにも私の周りを囲むようにして、4人の警察員がいた。
その全員が大柄で、私は圧倒されてしまった。
「はい、そうですが」
私は戸惑いながら答えた。
「そうですか、で、笹原さん。あなた、この店ではよくビデオを借りているようですね」
ビデオではなくDVDだと訂正したかったが、この年代の男にとってはどちらも同じようなものなのだろう。
私は端的に「そうです」と答えた。
「この前借りたビデオを覚えていますか?」
「たしか、アダムスファミリーの一作目だったと思いますが」
「そうですね。確かにそうだ。そして、あなたは同じようなビデオを何本も借りている」
「同じようなビデオ?」
警察は、鋭い視線で私をとらえると「そうです」という前置きのあとで、
「残虐な内容のビデオですよ。あなたが借りるのはきまって、人が残虐な方法で殺されるものばかりだ。コメディ調のも含まれているようですが、どこかしらに人が死ぬ描写がある。そうですね?」
「いや、ちょっと待ってくださいよ。別にアダムスファミリーは・・・・・」
「死ぬでしょ? 人が」
「た、確かにそうですが」
なおも抗議の声をあげようとしたとき、警察は本題にはいるようにして言った。
「笹原さん、この近所で殺人事件がおこったのを知っていますか?」
それは疑問ではなく、断定的な声色の言葉だった。
私が肯定の言葉を口にすると、警察は鬼の首でもとったように、
「あなたがやったんでしょ?」
「は、はい?」
「あなたが殺したんでしょ」
警察はやはり断定的に言った。
「今回の殺人は非常に猟奇的でしてねえ。いや、こんなところではいえないくらいの惨殺っぷりでしたよ。それで、私たちは近所のビデオ屋で調べていたわけです」
「な、なにをですか?」
「決まっているでしょう。そういうものが好きな人間をですよお。猟奇的な内容のビデオを借りている人間がいないか、調べていたんです。そしてあなたにたどりついたあ」
確信的な瞳で警察は私をにらんで、
「あなたが犯人なんでしょ?」
「ちょっと待ってください! なんでそんなことで犯人扱いされなくてはいけないんですか!?」
「だって、あなたは猟奇的な内容のビデオばかり借りてたじゃないですか。動かぬ証拠ってやつですよ」
「な、なにを言って・・・・・」
「ん? ひょっとしてその傘ですかな?」
警察は私の持っているビニール傘を指さしながら言った。
「その傘が凶器なんですか?」
「きょ、凶器?」
「しらばっくれても無駄ですよ。その傘で被害者を刺したんでしょうが」
「そ、そんなこと・・・・・」
こいつらはなにを言っているんだ?
まったく意味がわからない。
しかし、警察は待ってくれるつもりはないようで
「ビデオを借りていた以上、あなたが犯人なんですよ。ほら、このとおり令状もでています」
「そ、そんな・・・・だって・・・・」
「おい、連行しろ」
言うと、周りの警察が私の腕をつかんで手錠をはめた。
そのまま、引きずるようにしてパトカーに乗せられた。
私は必死に身の潔白を主張した。
しかし、結果は変わらなかった。
私は二年後、最高裁判所から死刑判決を言い渡された。
(おしまい)