日記
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お題
『着物』
『掃除機』
『かぼちゃ』
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「君の顔は、いつ見てもかぼちゃみたいだよなあ」
なんて、これまたいつものように美香が言った。
幼馴染の顔を見て、開口一番にそれはあんまりである。
それに、断じて俺の顔はかぼちゃに似ているなんてことはない。
毎日毎日、かぼちゃ扱いされるせいで、俺にとって「かぼちゃ」という単語はコンプレックスになりつつあった。
この精神的トラウマをどうしてくれるのだろうか。
「いや、だって君の顔はかぼちゃじゃないか。どうみてもかぼちゃだよ。君の顔を見た人間10人中10人が君のことをかぼちゃだというだろう」
そうかぼちゃかぼちゃ連呼されると、本当に自分がかぼちゃになったみたいで嫌だ。
「あれ? なんだっけ? かぼちゃの芽には毒があるんだっけ? ソラニンとかいったかな」
それはじゃがいもだ! といつものように突っ込みをいれると、美香は「うわ、かぼちゃが喋ったああ」と驚いてみせた。
殺してやりたい。
「そういえば、君の顔、どこかで見たことがあるな。あ、あれだ。私の家にある雛人形にそっくりなんだ。これが傑作でね。うちの雛人形の顔はぷくぷくにふくれて、これがなんとかぼちゃみたいなんだよ。ははは、君にお似合いだな!」
高笑いをする幼馴染。
笑うたびに彼女の大きな胸がプルンプルン揺れた。
「なかでも殿様? あの一番上に偉そうに座ってる男が君nそっくりでねえ。せっかくだからと、小学生の頃にかぼちゃ色に染めたことがあるんだその顔を。そしてらビックリ仰天で、君になったんだよ! あれはほんとかぼちゃでねえ。とてもおいしそうなくらいのかぼちゃだったなあ」
かぼちゃかぼちゃと、こいつには語彙がないのだろうか。
「……まあ、君そっくりのその人形は、私にとってもやはり特別な存在になったわけだけれどね」
ん? なんか言ったか?
「なんでもないよカボチャくん! しかし聞いてくれよ、そのかぼちゃ雛人形なんだが、ついこの間、君そっくりの人形の耳が落ちてしまってねえ。それに気付かないまま、うっかり掃除機で吸い込んでしまったんだよ!」
掃除機?
「そうさ。いやあ、私としたことがとんだヘマだったな。しかもその掃除機は吸引力が落ちないでおなじみのすさまじい掃除機だったからね、ウインウインと回転しているうちに、耳が完全に破壊されてしまってねえ。復元不可能になってしまったんだよ!」
悲嘆にくれる彼女。
それは災難だったなと、俺は適当にあいずちをうった。
「お? 同情してくれるのかい」
いや、同情ってほどでもないけれど。
でも、大事にしていたものが壊れるっていうのは、とても嫌なことだと思うからさ。
「そうだねえ。そうだよねえ。そこでものは相談なんだけどさあ」
美香は、ニヤリと唇を吊り上げると、
「君、私の雛人形になってくれないかな?」
と、手にスタンガンを持ちながら言った。
何を言っているんだこいつは。
「だって、君の体はもう、動かないだろ? さっきから一言も喋ってないの、気付いていないのかい」
は?
いやだって、俺はこうして……
「君は自分で喋っているつもりらしいけどね、君はさっきから一言もしゃべっていないんだよ。まあ、私ほどのかぼちゃマニアになると、それでも君の言いたいことくらい分かるけれどね」
な、なんだと?
「体も動かない。当然だね。すでに君の体は蝋人形になっているのだから。ふふふ、ここは私の秘密の部屋で、暗闇に染まっているのだよ? 君には何も見えないだろう。見えているのは私だけなんじゃないかな? 当然だよね。だって君は私の雛人形になるんだから」
俺の目……
確かに、なぜだろう。
俺は俺のいる場所を認識できないでいる。
そんな描写は一つもしていないし、俺が見えているのは彼女だけ……
体も、動かない?
え?
なんで……
「ふふふ、今からちゃんと着物をきせて、お化粧もして、立派な雛人形にしてあげるからね」
彼女だけが見える。
彼女は、嗜虐的な笑みを浮かべながら……
「これからもよろしく頼むよ。私だけのかぼちゃくん」
(おしまい)
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